「協議事項分析」 第20回

中東で2つの重要な進展、クドゥスとイラクの選挙

「協議事項分析」 第20回

政治経済社会研究財団(SETA)の研究者・作家、ジャン・アジュン氏著

 

中東でトルコ、そして実際は世界世論に深く関わる2つの重要な進展が起こりました。1つ目は、アメリカが在イスラエル・アメリカ大使館をテルアビブから(一部の国や地域では「エルサレム」と呼ばれている)クドゥスに移転し、イスラエルが非武装デモを行っていたパレスチナ人60人を殺害し、民間人2770人を負傷させたことでした。2つ目は、イラクで実施された選挙と選挙に勝利したシーア派リーダーのムクダタ・サドル師でした。

アメリカのドナルド・トランプ大統領がテルアビブにある在イスラエル・アメリカ大使館をクドゥスに移転すると発表したことを受けて、世界各地から反発が相次ぎました。国連安全保障理事会で大多数がアメリカの大使館移転決定に対する反対法案に賛成する中、アメリカは国連安全保障理事会で拒否権を行使して法案の成立を阻止しました。次に国連総会に持ち込まれた法案は、国際社会のほぼすべてから賛成を得ました。しかし、国連総会決議に拘束力がないことからアメリカを阻止する状況は生まれませんでしたが、国際社会がアメリカの決定に反対であることははっきりしました。トルコの緊急会議の呼びかけを受けて招集されたイスラム協力機構もトランプ大統領の決定を非難し、世界に訴えました。国際社会のほぼすべての姿勢がアメリカ1国の拒否権の前に無力となってしまったことは、実はレジェプ・ターイプ・エルドアン大統領の「世界は5大国よりも大きい」とする発言がどれほど正しいものであるかということを示しています。

これらすべての事件のあともトランプ大統領は決定を覆すことはなく、福音主義者の信仰の一部であるクドゥスがユダヤ人の首都となるという予言を実現する決意を披露しました。実際、トランプ大統領の大統領顧問団には数多くの福音主義者がいます。トランプ大統領が大使館の開設式に派遣した司祭は、急進的な福音主義者信仰で知られています。先日大使館がトランプ大統領の娘夫婦によって開設される中、パレスチナ人は平和的なデモを行いました。まさに世界最大の屋外刑務所であるガザ地区にいるパレスチナ人も、イスラエル国境付近で平和的なデモを行いました。ガザにいるパレスチナ人のデモに対し、イスラエル兵は冷酷にも実弾を使用し、パレスチナ人60人の死亡と2770人の負傷を招きました。

一方ではパレスチナの民間人が殺害されたり発砲されたりしており、他方ではクドゥスでトランプ大統領の娘夫婦が盛大な祝賀と共に大使館の開設を行うのに忙しかったのです。イスラエルが犯した罪を証明する何百もの動画や画像があるにもかかわらず、アメリカがハマスを非難したことは、実はアメリカがイスラエルに関して横柄になったことを示しています。アメリカ政権のくつろいだ態度の主な理由の1つは、アラブ諸国がパレスチナ人の権利を守る代わりに自分たちの権力の座を守るためにトランプ大統領を公に支持していることに起因しています。実際、世界中でパレスチナ人の権利のために最大の戦いを行っているのはトルコです。パレスチナ人の死亡を受けて3日間喪に服すことを宣言したトルコは、同時に議会からもイスラエルを非難する共同声明を公表しました。加えてトルコは、駐アメリカ・トルコ大使と駐イスラエル・トルコ大使をトルコに召還し 、駐トルコ・イスラエル大使は本国に帰国させました。

そのほかの重要な事柄は、イラクでの総選挙でした。イラクではDEASH(ISIL)対策が行われ、モスル、ファルージャ、アンバールといった都市が紛争で倒壊しました。その後イラク・クルド地域政府が独立住民投票を実施し、続いてイラク中央政府がキルクークやシンジャルといった論争の的となっている数多くの地域の統治権を奪還したあとにイラクで実施された選挙は、非常に重要性を持っていました。しかし、投票率が44パーセントといった非常に低い率にとどまったことは、イラクにおける民主制度とイラクの政治家に対する不信感を示しています。

イラクの選挙でイラクのハイダル・アル・アバーディー首相のリスト、ヌーリー・アル・マーリキー元首相のリスト、シーア派リーダーのムクダタ・サドル師のリスト、ハシディ・シャビ軍が参加しているファタヒのリストが主要な候補者リストでした。また、スンニ派リーダーのウサマ・アル・ヌジャイフィ師の決定連合とシーア派リーダーのアンマル・アル・ハキム師が率いる知識連合も重要な候補者リストとして選挙で目立っていました。

イラクの選挙でアル・マーリキー元首相のリストとハシディ・シャビ軍が参加しているファタヒのリストが親イラン派として特徴付けられる一方、アル・アバーディ首相とサドル師はアメリカやサウジアラビアと相対的により良好な関係を持っています。イラク独立高等選挙管理委員会の発表によると、サドル師のリストが首位に立つと見られる中、ハシディ・シャビ軍が参加しているファタヒのリストが第2位になると予想されています。アル・アバーディ首相のリストが第3位になると見られる中、アル・マーリキー元首相のリストは第4位になると予想されています。サドル師のリストが選挙で第1位になるとの予想を受けて、サドル師はソーシャルメディアのアカウントから発言し、アンマル・アル・ハキム師の知識の流れ、新世代運動(クルド系野党)、ゴラン(クルド系)、アル・ヌジャイフィ師の決定連合、ハリド・アル・ウバイド元国防大臣とアル・アバーディ首相のナスル連合、クルディスタン民主党から成るテクノクラートが一翼を担う候補者と共に組閣に向けて始動すると明かしました。

選挙後のイラクの内政におけるイランの力と影響力は弱まると見られています。というのも、アル・マーリキー元首相のリストとハシディ・シャビ軍が参加しているファタヒのリストは入閣しないと見られているからです。しかし他方では、イラクにおけるイランの影響力が政治的に弱まるとしても、軍事的な意味および軍隊に基づいてイランはイラクの内政において重要な関係国であり続けるでしょう。特に、イラク国内でイラク軍のほか第2の軍隊であるハシディ・シャビ軍をイランが直接指揮することができることは、将来のイラク政府の前に立ちはだかる最も重要な課題の1つであると見られています。

中東でイランを制限するというアメリカとサウジアラビアの政策の観点からイラクの選挙結果を見た場合、これは部分的成功であったと言うことが可能です。実際、サドル師は数年前に反アメリカ武装抵抗グループを指揮していましたが、現在はアメリカともサウジアラビアとも比較的良好な関係を保っています。同時にアル・アバーディ首相は、DEASHがモスルを制圧したあとアメリカによって同国のトップに任命されています。最近になってサウジアラビアに閣僚級の訪問を行ったアル・アバーディ首相は、イラクにおけるイランの影響力を制限するためサウジアラビアやアメリカと共に行動する用意があります。

イラクの選挙がトルコの観点から数多くの重要性を持っているとしても、テロ対策の枠組みではまた別の重要性を持っています。実際、トルコ軍がイラク北部で分離主義テロ組織PKKに対して進めている軍事作戦は、イラクでの選挙後により包括的な作戦になると見られています。イラク中央政府の支援と共に、イラク国内にいるテロ組織PKKの存在に対して行われる包括的な作戦は、イラク・トルコ関係の観点から非常に重要な進展となるでしょう。トルコ国内におけるテロ組織PKKの活動を最小限に抑えることに成功したトルコの治安部隊は、同時にユーフラテス川盾作戦やオリーブの枝作戦によって示した国境の向かい側にいるテロの存在と戦うという認識を継続させていく予定です。


キーワード: 協議事項分析

注目ニュース